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世界の仮面

(C)芳賀ライブラリー

八朔(はっさく)の日のメンドン 
  鹿児島県硫黄島

 旧暦8月1日を「八朔」という。薩南諸島の中の硫黄島ではこの日に稲の実りを願って若者たちが花笠をかぶり、胸の太鼓を打ち鳴らす郷土芸能を奉納する。静かに見物していると、突然神社の森から妖怪が飛び出してきた。かごや竹ひごに紙を張りあわせ、赤い「べんがら」を塗って黒い線で描いたカゴをかぶっている。その幅は約1mもある。手に紫の枝を持って見物人を打ってまわる。特に若い娘さんが狙われている。踊りの輪がくずれ、祭りの場が混乱する。この日メンドンの役をするのは14歳になった島の少年たちだ。自分で仮面を作ってハレの日に参加する。そして平和の島祭りに活気をあたえるトリック・スターの役をする。

山の神
愛知県北設楽郡東栄町

 山の神は真っ赤な神面をつけ、赤い衣装をまとってあらわれる。赤は血の色で、全身に活気がみなぎっていることをあらわしている。また赤は悪魔払いの色でもある。
 愛知県北部の山里では11月から翌年1月にかけて「花祭り」がおこなわれる。その時、真夜中に「榊(さかき)鬼」とよばれる山の神が祭りの場にもあらわれる。神のシンボルとして胸に榊の枝葉をさし、まさかりを構えて群衆に迎えられる。山の神は祭場を舞いめぐり、山林の樹が良く育つこと、山里で働く人々が健康で安全であることを祈っていく。

 

 

獅子踊り
岩手県下閉伊(しもへい)郡山田町

 東北地方では野獣の鹿の仮面をつけた若者たちの踊りが各地にある。「獅子舞い」とはいわずに「獅子踊り」といっている。秋祭りに胸の太鼓を叩き鳴らしながら、活発に飛び跳ね、悪魔払いをして踊ってめぐる。
 山田町の獅子踊りは鹿らしく二本の角があり、その真ん中に破邪の剣が立っている。また「かんながら」とよばれる木の削りかけをリボンのようにつけて背中にしょっている。この「かんながら」をつけると御幣をつけたのと同じで神聖な動物であることを示している。

クラウスの祭り
スイス ウルナッシュ

 アルプス山脈の麓の村では、年のはじめに仮面をつけ、頭上の冠には今年1年間の希望の仕事の模型を飾って村里をめぐる行事がある。
 ウルナッシュでは今でもユリウス暦を使って1月14日を正月にしている。13日の夕方から、仮面をつけた人々が山から降りてくる。若い女性の姿に扮した青年は乙女の仮面をつけ頭上に大きな冠を乗せている。その中に牧畜の生活をする人々の人形が飾られている。「今年1年間は家族がみんな元気に牧畜の仕事ができますように」という願いが込められている。その歌をヨーデルで歌いながら山里の家々をめぐっていく。

村の守護神 
ペルー プーノ

 7月の夏祭りに村の守護神がイーグル(鷲)に変身してあらわれる。村人は喜び迎え輪になって取り囲み、守護神と一緒に歌い踊る。守護神は村の家を一軒ずつまわり、悪魔払いをしていく。
 その仮面の角はボール紙細工、大きな目玉はガラス製。仮面の頭上には翼を広げたイーグルの像がかかげられ、目の覚めるような極彩色だ。祭りが終わりに近づくと、群衆はイーグルによってたかって囲み、もったいないことに仮面をぶちこわしてしまう。それは役目を果たした守護神の生命が終わったことを意味する。そして来年の祭りにはまた新鮮な仮面が作られ、活気にみちた守護神として村人の前に姿をあらわす。

 

 

超能力の魔神ラクシャ
スリランカ アンバランゴダ

 セイロン紅茶で有名な南海の島国スリランカは仮面の王国でもある。善神や王、姫などの優雅な仮面劇はコーラムと呼ばれる。対照的に悪魔払いの仮面がある。そしてもう一方に超能力を示し、人間に味方をする魔神ラクシャの仮面がある。ラクシャは島民に人気があるが、ひとたび怒らせると誰彼なく苦しめる。その表情の特徴は飛び出した目玉、大きな鼻の穴、むき出しの白い歯並びなど、きわめて威嚇的だ。熱帯の太陽のもとで暴れ回り、劇中からはみだして観客の中を駆けめぐり、見物人を喜ばせる。

バロン
インドネシア バリ島

バリ島の村のお寺の中にはバロンとランダの仮面を安置しているところが多くある。バロンは聖なる獅子で白魔術を使い村人を守る。黒魔術を使うランダとは永遠に戦い続ける。バリ島の哲学では、善と悪は終わり無く戦いつづけるという。

ランダ
インドネシア バリ島

ランダは魔女で黒魔術を使う。村に疫病や災いをもたらす。時々ランダの勝利を告げる劇「チャロナラン」をおこなわないと、ランダの怒りが村に降りてくる。劇ではランダの仮面をかぶった男にランダの霊が憑依する。

新年を祝う野生の鳥獣たち
ブルガリア バニシュテ

 どこの国でも民族でも、新しい年を迎えると、改まった気分を祝うために、さまざまな仮面をつけた訪問者がやってくる。
 ブルガリアでは1月17日に、シルバチカリと呼ばれる野獣や、野鳥の扮装をした若者が行列を作って村の中をめぐる。若者にとってはこの野獣や野鳥は前の年に狩りをして手に入れたものをハク製にした仮面だ。いくつもの毛皮をたくみに縫いあわせて、一つの精霊のようにみせかけたものもある。
 取り囲まれると人間の世界にいるとは思えない。行列は家々をめぐり、新しい年の祝福の合唱をして、ワインやリキュールをごちそうになって去っていく。

ドゴン族のダマ・セレモニー
マリ バンディアガラ

 ドゴン族は12年に一度ドゴン族の霊をまつるダマ・セレモニーをおこなう。12年の間になくなった人々の魂を弔うため、男たちが洞窟にこもり仮面を作る。作られた仮面には亡くなったドゴン族の魂が宿り、悪霊を追い払う霊力がつく。5日間の仮面ダンスのセレモニーが始まった。仮面をつけた男達が崖の上から狭い道を駈け降り、仮面劇を演じる。精霊世界と現世を結びつけるシリジ神や創造の神アンマを象徴とした仮面が登場し、最後に水牛とハイエナの仮面がドゴン族の未来を占う。セレモニーの後、死者の魂はドゴン族を守る祖先として認められる。

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